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投稿日付: 2001年 11月 14日 20:09
タイトル: 長屋と一国一城

◆マンション買って「一国一城」?

不景気の中、金利が安いとの事で不動産業が一生懸命に市場を活性化しようと、頑張っている。住宅販売の広告が非常に多い。
簡単に言うと「安くなっているし、家を買うための借金に付く利子が少ないです。」ということである。
それで一戸建てを建ててしまえれば構わない。あまつさえ土地も購入できていたら、あとの心配は建物の傷みと相続税の支払いくらいである。だが、問題だと思うのは集合住宅である場合だ。

「一国一城の主」とは日本人なら身内の誰かが言っていたか、あるいは自分でそうすべきといわれている人もいるだろう。
だが「集合住宅(連結されている住宅なども)なんて現代の『長屋』」というのが、私の捉えかたなのでどうしたって「城」などとは思えないのだ。

「一国一城の主」、そういう思いで貯金していたり勤労していたり、ローンを払いつづけている人もいる。
それも家ともなれば数年のローンではなく、十数年、あるいは数十年のローンである。
集合住宅は隣と壁を共有する。土地は部屋を買った人間のものではない。買った部屋は自分のものではないマンション全体の中に組み込まれた状態だといえる。

そして市場経済の中では中古で下取りともなれば、購入価格の一割くらいにしかならないことを覚悟しておかなければならない。
そこまでを購入時に納得したとしても、実はそれで終わりではない。

◆建物は傷む

建築物というのは、人の生活のリズムからいえば簡単に壊れたりするものではない。だが絶対に傷んでくるものである。
尺度は数年から十数年であろうが、バブル期に手抜き工事で作られた建物なら、もう既に目に見える形で痛みが発見できるのではないだろうか。

買った自分の「城」であれば修復しなくてはならない。
部屋の中だけで済むことであれば問題がないが、建物自体を修復したり補修するとなると問題が起きがちである。
一軒家ではないので、住民がすべて納得してお金を出し合って共同で一斉に直さなくてはならない。
他人の了解やお金が必要になるのだ。

◆「耐震構造」の意味

時間だけが建物を傷める原因ではない。自動車などの事故や災害でだって損傷する。
時節柄、心痛む話だが航空機が事故や他の理由で落ちてくることも、ないとは言い切れないご時世である。
(私が現在住んでいる近所には、十何年も前だが某空母艦載機が墜落したところがある。厚木も羽田も近い。)

ありそうなもので1番強烈なのは地震であろう。地震大国日本の建物であれば、いずれも耐震構造が取り入れられているのは手抜きでさえなければ当然である。
首都圏であれば最近の流行は超高層マンションで、2002年春には「阪神大震災」クラスの地震でも危険がないしっかりした作りのものがいくつも完成、分譲される。
関東大震災から80年になろうとしていて、周期説を信じて第二次関東大震災が数年以内に発生しても倒壊の心配なし、といったところである。

では地震その時には大丈夫だが、そのあと住めるのだろうか?
結論から言うと住む事はできる。ただし、建物はひびだらけのはずだ。
内部の鉄骨は柔軟性をもつ「組み方」をすることができるが、その柔軟性についてくるようなコンクリートはなく、大きく揺れればひびが入り、壁の表面のひびは補修できても壁の中の損傷は根本的な補修ができないからだ。

私は小学校卒業まで最上階が29階の超高層マンションの9階に住んでいた。後に手放したが住んでいた棟は分譲だった。
阪神大震災が発生したのは、そこから引っ越してから大分経ってからの事だったが、地震後にマンションの価格は地震前の1/2となり、貸していたこの部屋を手放す時は購入価格を下回っていた。(それでも購入価格に近かったことは僥倖だ。また終わっていないローンの支払いは売却とともに購入者へ移った。)
修繕費は積み立ててあったため新規に取られる事はなかったが、修繕といってもひびが入った壁は表面から塗るだけで、内部にどう亀裂が入っているかわかったものではない。

「耐震構造」は、このような「地震後」の建物を保証してくれるのだろうか。
もちろん、修繕でおきかねない問題は前述のとおりである。一軒屋なら建て直したってかまわないが、集合住宅ではそうはいかない。

◆問題は修繕だけではない

1番問題として大きく、関わるお金も多いので建物の修繕について述べてきたが、たとえばインターネットの普及でその高速回線としても当たり前になったケーブルテレビの引き込みでも問題がある。

最近はネットの回線として利用されるケーブルテレビだが、建築済み集合住宅への導入を積極的にサポートしている会社はほとんどない。
これは集合住宅に作りこまれているTVアンテナの配線が、ほとんどの場合は一戸ごとに分配する形になっていないためだ。

このTVケーブルの配線へケーブルテレビを単純に繋ぐと、全戸がケーブルテレビを見ることができるようになってしまう。ケーブルテレビに代金を払う部屋だけに配信することが出来ないという事である。
このため、ほとんどのケーブルテレビ会社は「大家とご相談ください。」とパンフレットに表記している。
これは建物として条件を整えなければ導入できないことを意味する。戸別配信ができる配線に改築する(もちろんこのための費用もかかる)か、全戸がケーブルテレビの費用を払って視聴するか、でなければケーブルTVの導入をあきらめるかである。
そして1番容易なのは、数が少なければ導入の見送りなのである。

場所によっては導入を願った住人が他の住民を回って説得し、その上でアンケートを取って大家に突きつけてようやく導入した、という記事を読んだ事もあるが例外的であろう。

◆「城」の「主」はだれ?

地震は来ると決まったわけではないが、それでなくても自分の家のはずなのに場合によっては自分だけで修繕が出来ないとか回線を変えられない状態で「主」などと言えるだろうか。
聞いた話だが最近TVで、長屋が立ち上がって積み木のように積みあがり、マンションに化けるCGアニメのCMがあるそうだ。
高度経済成長のなかで「ウサギ小屋」がちょっと豪華になっても、集合住宅なのには代わりがない。私以外にもそう考える人がいるわけである。
「一国」というからには「国とは土地」だと思うし、「一城」と言うからには独立した建物、「主」というからにはそれを自分の裁量で扱うのが本当だろう。

分譲マンションで「一国一城」などと自分をだまさず、手が届かないのなら届くまで賃貸でいい、というのが私の住宅観である。
引越しが多かったのもあるが賃貸の方が身が軽いと感じているし、一国一城をもつのは腰を落ち着けることのできる歳になってからでいい。
この高齢社会では、自分にとってそれはまだまだ先の事だと思っている。

・・・たぶん。

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