『戊辰白河口戦争記』を読む(2)「訳」ということ
(2020年6月23日 ザ・戊辰研マガジン2020年7月号に掲載 最終更新2024年11月15日)
『戊辰白河口戦争記』をきちんと読んでみよう、読んだ跡は「訳」として誰かの役に立つようにしておこう、と思いついたわけですが、具体的には次のような作業となりました。
[1]文字データ化
『戊辰白河口戦争記 復刻』のページをOCRスキャンして、パソコンで扱える文字データにしました。原著は昭和16年の古い活字であり、復刻版も原著の写真製版ですから、現代の私たちが読みやすいように現代の漢字書体になおすなどのためには、文字データとしてパソコンで編集できることが欠かせないと考えたからです。
ただし元の活字像がつぶれ気味であったりして、スキャン結果が文字違いになる場合も多かったので、「はなからキーボードで全部手入力するよりは楽」という程度になってしまいました。
しかし文字データ化したことによって、文書編集ソフト上で「検索」ができるようになりましたので、内容を読み解くうえでは大変便利になりました。たとえば全文中から、ある人物の登場箇所を抽出するようなことができるわけです。
[2]現代的表記になおす
現代の私がすんなり読み下せるように、現代の漢字字体になおし、地の文については旧かなづかいを現代かなづかいに改め、「斯て」などを「かくて」とかな表記に替えました。
あわせて実際に読み下すことが可能なように、“ふりがな”を振りました。紙面は少々煩瑣な見た目になりますが、読みを丁寧に確かめることは発見にもつながります。また、地方にはユニークな地名が多いと思いますが、それを継承する意味もこめて、むしろ努めてふりがなを振ることにいたしました。
[3]原著の誤記をなおす
復刻という目的ならば、原著の誤記もそのままにというのが見識かもしれませんが、私の「訳」は内容を理解することが第一の目的ですから、原著の誤植・誤字と思われる箇所は、脚注に記したうえで訂正をほどこしました。
原著は古い活版印刷ですから、誤植はあちこちにかなり見受けられました。それから内容を子細に読んでいくと、予想以上に誤記も発見されました。これについては脚注に私の見解を記しておくことにしました。
[4]脚注をつける
『戊辰白河口戦争記 復刻』には復刻編者である井上幸雄・金子誠三両氏の脚注が付けられているわけですが、それにくわえて、私が内容を読み解いた際に調べたことがらをメモ的に書き足しました。
井上・金子両氏の脚注とは色分けしていますが、分量としてはずいぶん多くなってしまい、これまた煩瑣な見た目になってしまったかと思います。
しかし幕末の事物の多くは、また昭和16年当時はなお慣例の事物であっても、現代の私たちにとっては馴染みのない意味も知らない言葉となっています。おおよそ高校生くらいが読解する際に参考にしてもらえるかという程度に、おせっかい気味に脚注を付けました。
なお、脚注という域をこえることになりますが、忘れられた人々、誤解され悪役視されがちな人々・・・たとえば、参謀世良修蔵、庄屋内山忠之右衛門、芸州藩士加藤善三郎、会津藩士田辺軍次、地方勤王派大平八郎、遊女志げ女などについては、注釈を厚くいたしました。
[5]付録資料
復刻版には「幕末・維新人物100人」「奥羽越列藩同盟図・藩一覧表」「目でみる戊辰白河戦争の記録」という付録がついていました。これらの付録についても、読解にあたって調べたことがらは注記を付しました。
また『戦争記』を私が読むうえで“ややこしい”と感じたことがらについて、表などを作成して新たに付録としたものがあります。「阿部氏系譜略図」「西軍の総督・参謀」「白河口戦争の地名地図」などです。
[6]「地名地図」に示す
『戦争記』に出てくる地名を片端から地図上に記してみます。その出来事があったのは何処なのか? 丁寧に追求していきます。
効用としては、出来事の位置的距離的な関係が認識できること。白河戦争の当時を現在私たちが生活する場所に重ねて感じることができること。また地方のユニークな地名を継承することにいくらかでも資することになる、と考えるからです。
復刻版においても、付録「目でみる戊辰白河戦争の記録」を添えることで、白河戦争の理解をビジュアルにしようと図ったのだと思います。私も、その方針に倣うことにしました。
国土地理院の「地理院地図」というサイトhttp://maps.gsi.go.jp/ に、地名など書き込んで自分の地図を作成する機能がありまして、これを利用して少しずつでも作業を重ねていけば、マイ研究地図を充実させていくことができます。(それをホームページで表示させるには、さらにまた工夫が必要ですが。)
[7]鳥瞰図を作成して眺める
白河戦争は現在の福島県白河市周辺で戦われましたが、その様相を理解するためには地形イメージが欠かせないと思います。そこで白河戦争の舞台となった地形を「鳥の目」で眺める方法があります。
「カシミール3D」という無料ソフトがあります。https://www.kashmir3d.com/ その機能の一つ、「カシバード」を利用しますと、任意の地点での鳥瞰図を見ることができ、さらにその鳥瞰図を画像ファイルとして書き出すことができます。白河戦争の各局面に関わるような鳥瞰図(パノラマ地図)を作成してみました。
(じつは「地理院地図」も3D地図を表示させることができます。しかし今ひとつ使いこなせないので、現在ご紹介することができません。)
[8]戦闘要図
白河戦争における軍部隊の動きを図示したものです。私はNPOしらかわ歴史のまちづくりフォーラム発行の『慶応四年戊辰戦争 白河口の戦い殉難者名簿』に掲載の図を着色リマスターしましたが、それらも元は大山柏著の『戊辰役戦史』に掲載の戦闘要図です。
[9]その他
ほんとうは現地を踏査し、写真なども撮ってくるのが常道だとは思いますが、東京から白河を訪ねることはそう頻繁にはできません。また現地白河での機動力も問題になります。
これは今後の課題、というか願望として保ちたいと思います。
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上述の地図を利用してビジュアル化を図るような手法は、戊辰戦争の他所についても応用できるもので、やってみると面白いのではないかと思います。
以上の作業の成果物を、インターネット上で公開したのが「戊辰白河口戦争記 学習ノート」というページです。
http://home.h05.itscom.net/tomi/rekisi/sirakawa/bosin/bosin-sirakawa.htm
もともと他人様の著作をいじくりまわした物ですから、私はこれら成果物に著作権などは主張いたしません。戊辰戦争を学んでいる方々、白河戦争を知りたいという方々へ公開して、何かお役に立てばと思っております。
【記者 冨田悦哉】